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果物でメタボ予防−その1


 メタボリックシンドロームの健診が4月1日から始まりました。メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪の蓄積と、高血糖、脂質代謝異常、高血圧のうち2つ以上が重なって集積している状態をいいます。それぞれの危険因子の程度が軽くても、重複していると相乗効果で心臓病など重篤な生活習慣病発症のリスクが高まります。

 診断基準は、ウエスト周囲径が男性で85cm以上、女性で90cm以上が必須条件です。これに加えて脂質代謝異常、高血圧、高血糖の3項目のうち2項目以上を満たす場合に、メタボリックシンドロームと診断されます(表)。


表 メタボリックシンドロームの診断基準
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ウエストサイズ
 男性85cm以上、女性90cm以上
脂質代謝異常
 高トリグリセライド血漿 150mg/dl以上 または/かつ
 低HDL-コレステロール血症 40mg/dl以下
高血圧
 収縮期血圧(最高血圧) 130mmHg以上  または/かつ
 拡張期血圧(最低血圧) 85mmHg以上
高血糖
 空腹時高血糖 110mg/dl以上
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注)ウエストサイズのはかり方
真っ直ぐに立って、軽く息を吐いた状態でへその周りを計測します。


果物と肥満

 「果物は甘くカロリーが高いので太るから食べない」と思っている方がおられます。しかし、ゴボウとリンゴを比較してみると、ゴボウのカロリーは100g当たり65kcalですが、リンゴのカロリーは54kcalです。パセリは44kcalでウンシュウミカンとほぼ同じカロリーです。このように、果物と野菜のカロリーは、ほぼ同じです。

 ダイエットには、ボリュームが大きく、水分や食物繊維を多く含む果物が優れています。例えば、リンゴの食物繊維は、水を吸収すると体積が12〜38倍にも大きくなります。食品のボリュームが大きいと満腹感が得られるため、結果として摂取する食事の量が減り、体重を減らす効果があります。そのため、アメリカを代表する医療機関であるメイヨ・クリニックでは健康的にダイエットするために果物の摂取制限はなく、少なくとも毎日3サービング以上摂取することを推奨しています(文献1)。

果物と高血圧

 高血圧と食事内容に関するアメリカ国立心肺血液研究所(NHLBI)などによってサポートされた研究から、飽和脂肪、コレステロール、総脂肪が低く、果物、野菜、低脂肪乳製品をたくさん食べている人の血圧が低いことが見いだされ、高血圧予防のためのDASH摂取プランが作成されました(文献2)。DASH摂取プランは、血圧の高い人たちに対して有効なだけでなく、現在は血圧が高くない人たちに対しても有益であるとして推奨されています。DASH摂取プランにおける果物の摂取量は、1日当たり320kcal〜400kcalです。この量はウンシュウミカンなら毎日7〜8個となります。

果物と脂質代謝異常

 果物に含まれている糖類、とくに果糖は、高脂血症の原因となるので、果物は体によくないと記述されることがあります。しかし、1986年、FDA(アメリカ食品医薬品局)は、甘くて栄養になる糖類(果糖、ショ糖、ブドウ糖など)に関する1,000以上の文献を検討し、健康面における評価を行い、高脂血症など生活習慣病に糖が直接的な原因であるという明確な証拠はないと結論づけました(文献3)。また、1997年FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)の両機関の合同委員会は、糖類と生活習慣病との関係を再検討し、FDA報告の結論を支持しました。

 日本人に対して農研機構果樹研究所の田中らは、リンゴ摂取とトリグリセライドの増減との関係を調査しました。ボランティアに、リンゴを1日当たり1個半から2個(平均420g)を3週間摂取してもらったところ、リンゴを摂取する前と比べてトリグリセライドが統計的に有意に21%減少しました(文献4)。

 以上のように、メタボリックシンドロームのどの検査項目(果物と血糖値は次回)に対しても、果物の摂取は有効です。そのためメタボの予防や対策に果物の摂取が推奨されれています。

【文献】
1) Mayo Clinic Healthy Weight Pyramid
http://www.mayoclinic.com/popupnowrap.cfm?
objectid=16BA8370-E7FF-0DBD-
1D0D024E452DC8ED&method=display_full


2) DASH摂取プランガイドブック(PDFファイル:英文64ページ)。
http://www.nhlbi.nih.gov/health/public/
heart/hbp/dash/new_dash.pdf


3) Glinsmann, W.H. et al.: Evaluation of health aspects of sugars contained in carbohydrate sweeteners. Report of Sugars Task Force, 1986. J. Nutr. 116: S1-S216. (1986)

4) 間苧谷徹・田中敬一.くだもののはたらき-改訂版-.日園連.(2005)


□ 果物でメタボ予防−その2 果物と血糖値

 最近のメタボリックシンドロームの記事の中に、果物に対する誤解が多く掲載されています。例えば「果物には、糖分、しかもブドウ糖に分解されやすい果糖も含まれている。果物はメタボを促進すると心得るべきだろう」(A週刊誌:F医師の発言;注1)などです。

 メタボリックシンドロームの診断基準の中で、前回、肥満、脂質代謝異常、高血圧と果物について解説しました。今回は、果物と血糖値との関係です。果物と血糖値との関係はメディアが繰り返して「果物の果糖は血糖値を上げる」と報じています。

 さらに、糖尿病の栄養指導においても「果物の果糖は血糖値を上げるので摂取を控えるように」とされていました。しかし、最近の研究から血糖値を上げないと考えられていたデンプン食品よりも、果物の方が血糖値を上げにくいことが分かり、栄養指導面で大きな転換が行われました。

 炭水化物を含む食品の血糖上昇作用を数値化したグリセミック・インデックス(GI)は、糖尿病予防に効果的な指標として使われています。グリセミック・インデックスとは、50gのブドウ糖を摂取した後、2時間の血糖上昇曲線下面積を基準(100)として、同量の糖質を含むそれ以外の食品を食べた後、2時間の血糖上昇の割合を、パーセントで表した数値です。

 つまり、食品のグリセミックインデックス値は、その食品が体内にどの位早く消化・吸収され、血糖値を上昇させるかを示す指標です。高GI食品は血糖値を上昇させるとともにインスリンの分泌量も増加します。

 この指標から、フランスパンや精白パンなどのデンプンを主体とした食品のグリセミック・インデックス値はそれぞれ95、70ですが、果物は低く、リンゴ38、セイヨウナシ38、モモ42、オレンジ42、サクランボ22です(表1,2:文献)。果物のグリセミック・インデックス値が低い理由は、良質な食物繊維などを多く含むためです。

 以上のように、果物は食品の中では血糖値を上げにくい食品に分類されています。繰り返し報道されている果物に対する医・科学的知見は20世紀のもので、医・科学の進歩した21世紀では果物はメタボリックシンドロームの予防に有効とされています。

【文献】
Foster-Powell, K. et al.: International table of glycemic index and glycemic load values: 2002. Am. J. Clin. Nutr., 76: 5-56. (2002)

表1.GI値の高い食品
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食品名     GI値
−−−−−−−−−−−−
ブドウ糖   100
フランスパン  95
コーンフレーク 81
フレンチフライ 75
マッシュドポテト 74
ポップコーン  72
精白パン    70
コーンミール(シリアル) 69
ショ糖     68
大麦パン    67
サツマイモ   61
アイスクリーム 61
チーズピザ   60
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表2.GI値の低い食品
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食品名     GI値
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キウイフルーツ 53
バナナ     52
ニンジン    47
ブドウ     46
モモ      42
オレンジ    42
イチゴ     40
プラム     39
リンゴ     38
セイヨウナシ  38
ヨーグルト   36
牛乳      27
サクランボ   22
果糖      19
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注1)
 「ブドウ糖に分解されやすい果糖」は科学的に誤りです。おそらく、ショ糖がブドウ糖と果糖に分解することだと思われます。

"メールマガジン「果物&健康NEWS Vol.191『記事テーマ』」
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